長塚さんの世界

 

わたしが通所しているB型作業所の近所に、センターと呼ばれている施設がある。

そこは、まあ言ってみればゆるい精神科のデイケアみたいなもので、いつでも好きな時間に利用していいし、好きな時に帰ってもいい。相談員が数名いて、相談に乗ってくれたり話を聞いてくれたりする。

ほかの利用者たちと雑談するもよし、一人で絵を描くもよし、ソファでくつろぐもよし、休憩室においてあるWiiのカラオケで歌うもよし、そんな感じの憩いの場だ。

 

わたしも時々このセンターに行っている。のんびりソファにすわって大体ぼーっとしている。センターにはいろんな人たちが来ていて、みんなやっぱりどこか変だ。

「もう人生楽しくてしかたがないぜー!」ってタオル振り回して踊っている躁状態の男の子がいたり、「わたしな、女優さんに似てるんよ。ほら、あのAVに出てる女優さん」って妙な自慢をしてくる女性がいたり、センターはいつも賑わっている。

 

そういう、自分の世界の中で生きている人たちは好きなんだけどね、わたしが苦手なのは、やたら話しかけてきたりあわゆくば出会いを求めている人たちだ。

精神疾患を抱えている人たちのカップルも何組か見てきたけれど、わたしはあんまりよく思えなかったな。もちろんお互いを支えあってやってる人たちもいるんだろうけれど、共依存して共倒れしている人たちも見てきた。

付き合うとか、恋愛する前に、自立目指すとか作業所でもいいから一円でも稼ぐとか、まずすることはたくさんあるでしょ?!って言いたくなる。

作業所でもセンターでも、言い寄ってくるような男性(なんでかわたしは禿げたおっさんにモテる)が本当に嫌。

 

でも、なかには自分の世界の中でのんびり暮らしている感じのいいおっさんもいて、長塚さん(仮名)はとてもいいおっさんだとわたしは思っている。

長塚さんはいつもセンターのソファにすわって、ノートに何かを書いている。この間、ちょっと見せてもらったら「滝川さん、眼鏡」と書いてあった。

これはどういう意味ですか?って聞いたら、滝川さんという人(長塚さんの知り合いらしい)が眼鏡をかけていたからメモしたらしい。

ほかにも、「インプラント」とか「野口さん三枚」とか書いてあって、長塚さんはこのノートを大事に胸のポケットにしまっている。

長塚さんは独身だけど、想像上の奥さんと息子が二人いるらしい。休みの日にはよくホームセンターに行くと話していた。長塚さんはホームセンターが好きだ。ホームセンターにはほしいものがなんでもあるらしい。

「この前、食べかけの焼きそばを机の引き出しにしまっておいたら、弟から叱られたよ」と長塚さんはささやくような声でひっそりと話す。

わたしは長塚さんのように自分の世界をきちんと持っていて、ぶれない人がとても好きだ。

「かなえちゃんはね、オロナインをこめかみに塗ったら元気になれるよ」と長塚さんは言う。長塚さんは長塚さんのままで、長塚さんの世界を生きていってほしい。

わたしもわたしの世界を精一杯生きよう。